8年前、当時、勤めていたのは不動産会社。経理事務で入社したにもかかわらず、しばらくすると営業職を言い渡された。附に落ちなかった。社内の雰囲気にも馴染めなくて、体調が悪くなる前に自分から辞めようと退職を決意した。そういえば、工事を請け負っていた飛田建設から請求書が届いていない。連絡を入れ、飛田専務に「私、辞めるので、早めに送ってください」と伝えると、思ってもみない言葉が返ってきた。「辞めるならうちに来て」と。

すでにこのとき60歳を過ぎていた。仕事ももう終わりでいいかと考えていた。でも、働く場所があるなら働きたい。年齢的に仕事を覚えるのに時間がかかるため、前任者からの引き継ぎに余裕があるかが気になった。返事は「しばらくいるから大丈夫」。今までより通勤時間も長くなり、車でも電車でも1時間かかるけれど、断る理由はなかった。ありがたいお誘いを受け、飛田建設でお世話になることを決めた。

飛田社長は、あちこちの現場へ出向き、職人さんの采配から会社全体のことまで自身で行い、子どものPTA会長までこなす。経理も社長が行い、私はその補佐役。書類や請求書の作成、協力会社からの請求を一覧表にまとめるほか、銀行での支払いなどが主な業務だ。そのほか現在、臨時的ではあるが、傘下の不動産会社、(株)工業倉庫総合管理の経理も手伝っている。育児休暇中の社員に代わってネットバンキング以外の支払いや記帳、管理表への記入などを行う。業務は2社分。間違えないよう「これがこっちで、これはあっち」と、最近は独り言が増えた。

会社の雰囲気は、とにかく家庭的で居心地がいい。事業所内では私が最年長。「若い」と言ってもらえるのは、若い人たちに囲まれた職場でネルギーをもらっているから。ちょっとした空き時間には、歌手やライブの話題、全員が千葉ロッテファンだから野球の話を聞くことも多い。ときには孫の話を聞いてもらうこともある。仕事を続ける秘訣を聞かれるが、「家にいるよりここで仕事をしている方が好き。ただそれだけ」。

勤務時間は9時から6時。コロナ以降、通勤を電車から車に変えた。朝7時40分には家を出て、帰宅するのは8時。帰りに買い物をしたり、道路が渋滞したりすれば8時を回る。だから家事は上手に手を抜いている。料理も休みの日は作るが、平日はお惣菜で済ませる日も多い。仕事を引退した主人にも洗濯を覚えてもらった。それでも日曜日になると家でゴロゴロ。通勤1時間はやはり遠い。

年齢的にもそろそろ退職を考える時期。「家に引きこもってしまったら何もしなくなっちゃうだろうな」とも思う。「まだまだいて欲しい」と頼りにしてくれる社長や専務の言葉は本当に嬉しい。仕事も飛田建設も好きだから、働き続けたい気持ちももちろんある。しかし頭の中の箱は限りなく満杯。忘れることも多くなり、若い頃との差を痛感している。お金のことだからミスは許されないし、長くお世話になった会社に迷惑をかけるわけにはいかない。きちんと時間をかけて引き継ぎを行い、後任者を育ててから退きたいと考えている。退いたとしても、この先も飛田建設のさらなる発展を願う気持ちは変わらない。